優しい爪先立ちのしかた

咀嚼を止めてしまった顎。どうしよう、このまま出してしまおうか。

「壊れた」

「直してつけなよ、お母さん悲しむよ!」

「お前の母親じゃない」

いや、そんなことを出来る場面ではない。

栄生は必死にそれを奥歯で噛み砕いてお茶で流し込んだ。肉の感触が残っていて気持ちが悪いので、夕飯は終わりにする。

梢はイライラが溜まる一方のようで、肘をテーブルにつけたまま、食べ物には一切触れていなかった。

「あたしにとっては、お母さんみたいなものだもん…」

泣きそうになる早穂の顔を視界に捉えた栄生。

お母さん。

その単語に、遠くなってしまった過去の自分に思いを馳せる。

馳せる、だなんて烏滸がましい限りなのは知っているが。



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