優しい爪先立ちのしかた

状況が凍結した。

早穂は何も発しなくなってしまったし、梢も梢で黙っている。

栄生は煙を立てている網を見つめる。

「早穂さんは、焼き肉が好きなんですか?」

「うん?」

「繁華街にも焼き肉店、沢山あるのにわざわざここのお店まで来たってことは結構通なんじゃないですか?」

栄生が微笑む。何の脈絡もない話に、梢は少し気づいた。

「確かに、肉好きだなあ。アルバイトもね、焼き肉店とか、精肉屋さんとか」

「あ、じゃあまだこの街に居るんだったら、商店街の深山コロッケを一回食べてみてください」

「あたしの舌は肥えてるよ?」

早穂が悪戯な笑みを見せた。



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