優しい爪先立ちのしかた

私も肥えてますよ、と栄生も微笑んでみる。

「じゃあ今度行ってみるね」

ほら、とここに誰かが居るなら梢は我が物顔で言っただろう。

栄生はまたもや魔法を使ったのだ。

使った本人も、使われた当人も気付いていない魔法。

前の使用人はそれに気付いていたのだろうか。
栄生と寝たらしい使用人。

空気が一気に和む。

梢も早穂も本題を口にすることはもうなかった。

時間も経って帰る、と立ち上がる。

会計を済ませにいった早穂は本当に奢ってくれるようで、そのことに口を出す二人ではなかった。

ゆっくりと出口へ歩いていると、栄生が足を止める。

…これは大変だ。

冷静に思う。喉の奥から押し込めたはずの牛肉が戻ってくる予感。



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