優しい爪先立ちのしかた


「栄生さん?」

「先に帰ってて」 

くるりと店内へ入っていく。すぐにトイレに向かって、個室の鍵を閉めた。

梢は女性トイレの前で立ち止まり、入って良いものか考えた。

しかし、理由を並べる間もなくその中へ入った。

まさか、いや、想像はしていたその状況に、梢は額を押さえる。

水で口許を洗う栄生の背中を擦る。

「大丈夫ですか」

「…うん」

「早穂にはいっておきます、落ち着いてから出ましょう」

首を横に振る栄生を無視して、梢はトイレを出る。二人を捜していた早穂と出会してそれを伝えた。

「え?」

「今日は、ありがとうございました」


距離を取ったその敬語に、返す言葉がなかった。


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