優しい爪先立ちのしかた
早穂は状況を察したのか、それとも梢を諦めたのかは分からないが、二人が店を出るときにはもう姿が見えなかった。
タクシーを捕まえて二人で乗り込む。
気怠さも手伝って、栄生は窓の外の流れる景色を目で追っていた。
「すみません、本当に、今日は」
梢は申し訳無さそうに頭を垂れる。犬だったら耳を垂れているかもしれない。
「カルビ食べたの私の責任だし、逆にごめん」
肩を竦める。栄生の視線が梢へ向いた。
「あと、別に私が口出すことじゃないんだけど」
「はい」
「帰らないの? お母さんの一周忌」
聞いただけ。それは栄生の中で、イエスかノーで答えるただの質問だった。