優しい爪先立ちのしかた
先に逸れたのは、梢の視線。
それでも栄生は見ていた。
「母子家庭だったんです」
イエスかノーではない答えが返る。
それに耳を傾ける栄生。脱ぎかけのパンプスを
爪先にだけひっかける。
「高校卒業した後も俺はずっと遊んでたんですよ。母親が仕事している間ずっと」
「そういう感じするね」
「ですよね、それから就職して、去年亡くなって。でも、どこかでずっと引っかかってるんです」
何処かとは。胸だろうか、喉だろうか。
何もしていない腕を見る。梢の視線が栄生へ向いた。
「この気持ちのまま、あんまり帰りたくないっていうのは我が儘ですかね」
その表情に、栄生は本当に梢が自分より年上だと感じた。