優しい爪先立ちのしかた
彼の神経
栄生はその場を動かなかった。
あの時と同じ、だ。
「私、ここに居るよ」
「…はい」
梢は小さく頷く。その姿を少し心配に思いながらも栄生は何も返さない。
階段を登る梢を見て、薄く微笑む。
空を見上げる。雨が降りそうだ。
車の中に戻った。
早穂が先に来たのか、他人なのか、花が置いてあった。
梢はその隣に花を置いて、線香をあげた。
墓石は綺麗だ。
いつも誰かが来ているようで、雑草も抜かれている。
実の息子のクセに来るのが一番遅くなってしまった。
手を併せる。
報告することがありすぎる。嶺のこと、栄生のこと、屋敷のこと、栄生の友達のこと。
「遅くなってごめん… 」