優しい爪先立ちのしかた

カナンは優しい。優しいうえに、子供の中では権力を持っている方だった。

深山コロッケが老舗だということもあるからか、親も子もカナンに何かを強要することはなかった。それを利用しようとした先生にも、カナンは逆らわない。

寡黙で、つまらなさそうに毎日を過ごす栄生が憐れだったのだろう。

都会っ子で、あの氷室家の娘に口出しするのはカナン以外に居なかった。

「私、カナンに頭上がらなかったんだー…」

「え、嘘でしょ? すごい上がってるよ」

あたしより背高いし! と帰り道を歩きながら恨めしそうに言う。

家族がいなくても誰かが居てくれたという温かみも、何にも代えられない。
梢はそれを知っているだろうか。

鞄の中にある時計が時を刻んでいる。



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