優しい爪先立ちのしかた
栄生が玄関を開けて「ただいまー」と声をかけるが、返事がない。
買い物にでも行っているのか、と思うが、石畳の上に乗るブランド物の靴を発見した。
制服のまま居間へ向かう。襖を開けると背丈は似ているが、梢ではない男の姿。
「あ、おかえり」
「ただいま帰りました。梢は」
「本家に急に呼び出されて行った。その間留守番を任された」
番犬かよ、と嶺が卓袱台に肘をつく。なんて日本居間が似合わない男なのだろう。
一番に梢へ見せたかったので、少し気分が落ち込む。そんな様子の栄生を見て、
「そんな寂しそうな顔すんなよ。ほら、俺を梢だと思っていいぞ。来るか?」
と膝の上を叩く嶺を白い目で見て、着替えに部屋へ行った。