優しい爪先立ちのしかた
梢にはすぐに懐いたな、と栄生のいない空間で一人思う。自分以上に仲良くしている姿を見るのはなんだか面白くない、と嶺は大人気なくとも考えずにはいられなかった。
ガキか。
「お兄さんは今日、仕事はお休みなんですか?」
「午前中に本家に呼び出されて、戻ったんだけど能瀬に休めって追い出された。暇だったから来てみた」
「うちは休憩所じゃないんですよ? 梢はいつ帰るとか聞いてます?」
「夜中になっても帰ります、だと。死んでも泊まりませんって」
栄生が苦笑した。よく出来た犬ですこと。
何が何でも、栄生に心配はかけたくないらしい。
「んで、お嬢さんに夕飯を食べさせろと仰せつかりました」
「仲が良いですね、お兄さんと梢は。いいなあ」