優しい爪先立ちのしかた

本当に羨ましそうな声色なので、嶺は目を丸くした。それに気付いた栄生は朗らかに笑って誤魔化す。

「夕飯、蕎麦が良いです」

「了解了解」

今日の夕飯は薫る家に決定した。

流石に式鯉は表に出ていなかったが、義巳には興味津々な目で見られた。そして、

「雰囲気似てますね」

と言われてしまった。
二人して顔を合わせる。似ているのは父親の部分だろうか、とは各々が思ったものの口には出さなかった。

日付を跨ぐ少し前、電話が鳴った。

帰ってこない梢に、栄生は寝つけない。嶺も帰るに帰れず、兄妹共に居間で過ごしていたとき。

この家の電話に掛けてくるのは限られている。学校か、クラスメートか、本家の人間。

こんな時間に鳴らすのは?


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