優しい爪先立ちのしかた
電話に近い場所にいた嶺が立ち上がった。
栄生も居住まいを正して、それを見上げる。
「もしもし」
廊下に嶺が応対する声が響く。本家からだろうか、と予想しながら廊下に顔を出した。
はい、はい、と普通の返事。
ちら、と栄生の方を向いた視線。その奥に動揺が見え隠れした。
「今すぐ行きます。すみません」
謝った、と同時に切られる電話。
「行くって。電話、どこから…」
「警察」
「は?」
居間に戻って栄生へ問う。
「車借りる。キーどこか分かるか?」
「そこの棚の一番上ですけど、どうして警察に」
立ち上がった栄生が嶺に車の鍵を渡す。嶺は身ひとつでここに来たのだということを思い出した。