優しい爪先立ちのしかた
古傷でも疼くのだろうか。
それとも黒歴史でも思い出したのか。
そんな梢が見た栄生の表情。
ぎゅ、と眉を顰めて何とも言えない顔。
さっさと出ていくのを見て、しゅんとする梢の背中を叩いて嶺も出て行った。
「栄生、赦してやれよ」
仲介に入ろうとした嶺の思いも虚しく。
パンッと乾いた音が梢の頬を打った。
唖然とした男二人。栄生が下から睨みあげた。
「……の馬鹿犬っ! なんで行って帰って来れないの!?」
怒鳴った声に梢は口を半分開けたまま。
嶺はそれを聞いて笑いを隠す。
秋に入りかけた夜風は冷たい。
「すみません…」
謝るまでの時間が酷く長く思えた。栄生はその言葉を聞いて、長く息を吐く。