優しい爪先立ちのしかた
謝ったものの、口を利いてくれたことにほっとする梢。打たれた頬より、そちらの方がずっと恐ろしかった。
「……叩いてごめん」
「手が早いのは充分理解してます」
「なに!? 何か言った!?」
「いや、そういう意味ではなく」
再度睨む栄生を宥めるように苦笑する。
とんとん、と嶺が車のフロントガラスを叩いた。
「漫才をまだ見てたい所なんだけど、俺は明日も仕事だから帰らして貰ってよいですか」
「あ、存在忘れてました。すみません」
「梢てめえ…」
今のは完全に悪意があった。嶺が容赦なく膝裏を蹴り、やはり二人は兄妹だと認識する。
嶺の家に寄って嶺を降ろして帰ることになり、梢が運転しようとしたが、
「お前の危険運転を知ってて乗る奴があるかよ」
と自分で運転することになった。