優しい爪先立ちのしかた
す、と栄生が手を差し出す。本能的にそれを握った。
「俺は現当主に呼び出されました」
現当主、栄生の父親。
目を細めた栄生はすぐに表情を戻す。
「それで?」
「……子供が、男の子が出来たと」
車内が静かになる。誰一人として口を開かない。
一気に重くなった空気を梢が一番感じた。
「ええ、なんか嫌だ。ねえ、お兄さん」
パッと離された手。
前に座っていた嶺が肩を震わせている。
「そうですね妹殿」
「親の性生活を垣間見ちゃったこの感じ」
「俺とか何歳違いになんだろ」
「本当ですよ、子供が中学生になったら私三十歳なんですけど」
はあ、とわざとらしく溜息を吐いた栄生は、窓の外に視線を向けた。