優しい爪先立ちのしかた
場の空気を和ませようとしている。
栄生は自分で自分を嘲笑ってしまう。
「ふうん、そう。わざわざ、梢を呼びつけて言うくらい私に直接言いたくなかったと」
笑った声が乾いていた。
同じことを梢も思った。
それから駅近くで酔っ払いに絡まれる、栄生に歳の近い女の子を見て、血が沸騰したのだろう。
嫌いな警察にお世話になるくらい。
「とんだ、親失格ね」
呟いただけの声が車内の二人の耳に届いていた。
ゾクリと背中を震わせる男二人は、窺うように栄生を見た。
外はオフィス街。未だ残業をしているサラリーマン達の光が灯っている。
栄生が誰かの、特に父親を中傷するのは初めて聞いた。