優しい爪先立ちのしかた
ずっと幼い頃から知っている嶺ですら。
「じゃあ、俺はここで降りるから。梢、後頼んだ」
空気を掻き回すように、少し手前で嶺が車を止めた。梢も協力するように頷く。
後部座席から退いた梢を追うように栄生が外に出た。
「今日は大変ご迷惑をおかけしました。ほら、梢も」
「あ、どうもありがとうございました」
倣うように頭を下げた。終電に間に合ったサラリーマン達が、異色な三人をチラチラと見ながら歩いていく。
もういいから、とさっさと頭を上げさせた嶺が「じゃあな」と手を挙げて行ってしまう。
後ろ姿を見送った二人は車に乗りこんだ。
都会では星が見えないというけれど、そんなの嘘だ。
「安全運転でね」
「はい、勿論。一日二回もサツの世話になるなんて御免です」