優しい爪先立ちのしかた

ずっと幼い頃から知っている嶺ですら。

「じゃあ、俺はここで降りるから。梢、後頼んだ」

空気を掻き回すように、少し手前で嶺が車を止めた。梢も協力するように頷く。

後部座席から退いた梢を追うように栄生が外に出た。

「今日は大変ご迷惑をおかけしました。ほら、梢も」

「あ、どうもありがとうございました」

倣うように頭を下げた。終電に間に合ったサラリーマン達が、異色な三人をチラチラと見ながら歩いていく。

もういいから、とさっさと頭を上げさせた嶺が「じゃあな」と手を挙げて行ってしまう。
後ろ姿を見送った二人は車に乗りこんだ。

都会では星が見えないというけれど、そんなの嘘だ。

「安全運転でね」

「はい、勿論。一日二回もサツの世話になるなんて御免です」


< 246 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop