優しい爪先立ちのしかた
放課後、式鯉に呼ばれた栄生は生徒指導室のパイプ椅子に座っていた。午前中とは打って変わって、雨の降りそうな窓の外。
折り畳み傘を持っていないな、と思った栄生は扉が開いた音にきちんと座り直した。
「ご両親、忙しいの?」
座りながら式鯉は聞く。
栄生は小さく肩を竦めて見せた。
「みたいですね」
「面談にも来れないくらい?」
「子供が出来たみたいなんです。そういえば、先生は子供作らないんですか?」
「私の話はいいの……深山さんね」
あ、口が滑った。と気付いた頃にはもう遅い。
式鯉はしっかりと記憶している。
「子供って、氷室さんの妹か弟ができるってこと?」
「みたいです」