優しい爪先立ちのしかた
梢もこんな先生に出会えたら良かったのに。
「そうしたら、カナンと一緒に薫る家に飲みに行きますね」
「ご贔屓に」
「……うん、……うん、分かった」
栄生の暗い声と電話の切れる音に梢が後ろから忍び寄っていた。
「どちら様でしたか」
「聖から」
十六夜聖。夏に一度泊めてもらった銀髪の、少々粗野な口調の。
未だ暗い顔をしている栄生が、梢を見上げた。
「聖の曾お祖父様が亡くなったって」