優しい爪先立ちのしかた

だから、

「来世で恋人になりましょう」

今まで見た中で、一番優しい笑顔。

栄生にも分かっていた。

梢も栄生を好きでいてくれること。
でも、主従の関係を大切にしていること。

「来世とか……格好良すぎ」

「そうですか? 本心からですよ」

「梢、キスしよ? 誰も見てないから」

雪の降る中庭。皆部屋の中に入って、温かい所で聖の曾祖父の懐かしい話でもしているのだろう。

承諾するように梢が身を屈める。
栄生は地面で爪先立ちをした。

たらればなら、何度も思った。
でも、たらればの世界で二人が出逢うことは無かっただろう。

「愛してる、梢」

前にも後にも、栄生が愛の言葉を紡いだのはその時だけ。


< 264 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop