優しい爪先立ちのしかた
だから、
「来世で恋人になりましょう」
今まで見た中で、一番優しい笑顔。
栄生にも分かっていた。
梢も栄生を好きでいてくれること。
でも、主従の関係を大切にしていること。
「来世とか……格好良すぎ」
「そうですか? 本心からですよ」
「梢、キスしよ? 誰も見てないから」
雪の降る中庭。皆部屋の中に入って、温かい所で聖の曾祖父の懐かしい話でもしているのだろう。
承諾するように梢が身を屈める。
栄生は地面で爪先立ちをした。
たらればなら、何度も思った。
でも、たらればの世界で二人が出逢うことは無かっただろう。
「愛してる、梢」
前にも後にも、栄生が愛の言葉を紡いだのはその時だけ。