優しい爪先立ちのしかた
何かが壊れる音がした。
「嫌ねえ」
聖は窓越しに見える雪を眺めている母親が言ったのを聞いた。
「何がですか?」
近くにいたその秘書が言ったが、母親は微笑むだけ。多分、秘書には聞こえなかったのだ。
「聖、向こうのことはあんたに任すわ。これからこっちは忙しくなるからあまり行けなくなるけど」
「それは良いけど、今の何か分かるのか?」
「分かるのなら、今頃こんな所で後継者争いなんかじゃなくて占い師で儲けてるわ」
涼しい顔をしているが、聖は逆に不安を覚える。
「……占い師じゃなくて賭博師にでもなってたんじゃねえの」
「嫌やわあ、この子ったら」
ばしり、と背中を冗談のように叩かれる聖。普通に痛くて噎せてしまった。