優しい爪先立ちのしかた
雪が積もっていた。栄生の住んでいる所では雪が積もることは殆どない。
「持って帰ってカナンに見せてあげたい」
中庭のそれを眺めていると、後ろから梢の笑う声が聞こえた。
「雪は難しいですね」
「分かってるよ、寒いのも御免だもの」
「仰る通りで。荷物、車に運んで来ますね」
梢は自分と栄生の荷物を持っていた。「うん」と栄生が答えて、梢の方を振り向こうとした。
途端、動きが止まった。
「…お久しぶりです」
苦笑い。浅い会釈。
梢もそちらを見た。
「び、っくりした」
「幽霊だと思いました?」
「や、今それを冗談として言うのは不謹慎な気がする」
「十六夜に祟られますかね」
梢は黙っていた。栄生がそれに気付いて振り向く。