優しい爪先立ちのしかた

前進している間、二人の間に会話はない。

赤信号で再度止まる。カチャ、とシートベルトが外れる音。

梢が横を向くより先に、栄生は身を乗り出して梢のシートに手をついていた。栄生の唇が微かに梢の頬に当たる。

「な、……んですか?」

「梢の思う通り、私は阿婆擦れだもの。阿婆擦れらしく、積極的に行こうと思って?」

「来なくて良いです、危ないのでシートベルトしてください」

後ろからクラクションを鳴らされる。栄生が戻ると、素早く梢がそのシートベルトをかけた。そして急な発進をさせる。

「深山さんに聞いたんです」

「カナンに? あー…喧嘩した時のこと?」

覚えがあるらしい。
梢はその答えを待つ。

「梢が知りたいのは添い寝の方? それともセックスの方?」



< 272 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop