優しい爪先立ちのしかた
前進している間、二人の間に会話はない。
赤信号で再度止まる。カチャ、とシートベルトが外れる音。
梢が横を向くより先に、栄生は身を乗り出して梢のシートに手をついていた。栄生の唇が微かに梢の頬に当たる。
「な、……んですか?」
「梢の思う通り、私は阿婆擦れだもの。阿婆擦れらしく、積極的に行こうと思って?」
「来なくて良いです、危ないのでシートベルトしてください」
後ろからクラクションを鳴らされる。栄生が戻ると、素早く梢がそのシートベルトをかけた。そして急な発進をさせる。
「深山さんに聞いたんです」
「カナンに? あー…喧嘩した時のこと?」
覚えがあるらしい。
梢はその答えを待つ。
「梢が知りたいのは添い寝の方? それともセックスの方?」