優しい爪先立ちのしかた
車を動かしながら聞く話にしては、重すぎる気がしたから。栄生は気にせずに車を出た。
冷たい空気に身を晒して、コンビニの中に入っていく。
「おでん食べたい、梢」
レジ横にあるあつあつのおでんを見ながら、我儘を仰る栄生。
はい、と返事をした梢を、店員が怪訝な顔をして見やる。
梢は栄生が好きそうなおでんを買って、二人でコンビニを出た。
「私は尾形が好きだったの。家族みたいに思ってたのよ、従兄弟のお兄さんみたいな感覚で」
車止めの上に座り、大根を二つに割る。
薄っすらと積もった雪は殆ど溶けていた。
隣に座る梢はただ耳を傾けるだけ。他に車が来る様子も無かった。
「尾形には恋人がいた。私はそれを知っていたけれど、その恋人は尾形が私と一緒に住んでいることを知らなかった」