優しい爪先立ちのしかた

車を動かしながら聞く話にしては、重すぎる気がしたから。栄生は気にせずに車を出た。

冷たい空気に身を晒して、コンビニの中に入っていく。

「おでん食べたい、梢」

レジ横にあるあつあつのおでんを見ながら、我儘を仰る栄生。

はい、と返事をした梢を、店員が怪訝な顔をして見やる。

梢は栄生が好きそうなおでんを買って、二人でコンビニを出た。

「私は尾形が好きだったの。家族みたいに思ってたのよ、従兄弟のお兄さんみたいな感覚で」

車止めの上に座り、大根を二つに割る。
薄っすらと積もった雪は殆ど溶けていた。

隣に座る梢はただ耳を傾けるだけ。他に車が来る様子も無かった。

「尾形には恋人がいた。私はそれを知っていたけれど、その恋人は尾形が私と一緒に住んでいることを知らなかった」



< 274 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop