優しい爪先立ちのしかた
梢は額を押さえた。
栄生の器は大きいのか、それともただ底が抜けているだけなのか。
「連れて帰って初めて、私もその人が尾形の恋人だって知ったんだけどね。二人してちょっとご飯食べて、少し話して」
「ご飯を食べた……?」
「でもその人吐いちゃって、最初はストレスかと思ってたんだけど、妊娠してるって聞いた」
だからと言って、刺して良い理由にはならない。
空になったおでんの容器に割り箸を入れる。
「子供って、なんなんだろうね。妊娠って、なんなんだろう。嬉しいだけのものじゃないっていうのは、ずっと心の奥で感じていたけど」
思い出すのは呉葉のこと。
「だから、今日幸せそうな尾形を見られて良かった」
微笑んだ栄生を、梢が抱きしめた。