優しい爪先立ちのしかた
今朝から、栄生の様子がいつもとは違っていた。
常に穏やかではあったけれど、それに優しさを重ねたような雰囲気。何か良いことでもあったのか、と思っていたカナン。
とんでもない。
「先生、何も言わなかったの?」
「分かった、だけ」
「なんで? 留学でもするの?」
前の席に座って声を潜める。そんなカナンに栄生が少し笑う。
「やりたいこと決まったから。日本だけどね、自分の力で入りたくて」
朝の梢の様子を見て、言おうと思ったが、帰ってから話そうと決めた。
「なんか、」
鞄を隣の椅子に置き、参考書を机に広げる。
カナンは続けた。
「栄生ちゃんのことちゃんと聞いたの、初めてかも……」