優しい爪先立ちのしかた

傍から見れば、恋人同士だ。特にカナンが見たら安心するような絵図。

すっかり二人とも、甘い水に浸かっている。

そして、平和ボケした世界には突然、槍が降ることがある。

「……どうしたの?」

ピタリと足を止めた梢を振り返る。

辺りは田舎なだけあって暗闇。広い道ではあるが、街灯は数十メートル先に見えるだけ。

梢は栄生の質問に答えないまま、手に力を込めた。

その雰囲気の豹変ぶりに圧倒されながらも、栄生は黙る。そして何かが横を掠めた音に、反射神経で避けた。

「大丈夫ですか」

急に増える足音。梢の声よりもそちらに気を取られた栄生は、縋るように梢の裾を掴む。

「な、なに?」

「囲まれました。隙をついて逃げてください」

耳元で言われた言葉に素直に頷くことは出来ない。

何に囲まれているのか。


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