優しい爪先立ちのしかた
「梢っ」
一人一人跳ね返してはいるけれど、梢も人間であり一人しかいない。栄生のことを気にして身体を動かしているので、落ち着かない。
鉄パイプが骨を砕く音。
誰の骨に当たったのか。呻く声が誰のものなのか。
栄生は、それに突っ込むように倒れる。
すぐにそれは静まった。
「ちゃんと伝えて!」
叫んだ声は、栄生自身の耳にも響く。梢の胴周りを抱きしめて、背中に梢の手の温もりを感じた。
「幸福なのが羨ましいなら、自分で壊しにくれば良いって!」
数人の動きが止まっている。その言葉を聞き入れたのか知れないが、さっさと去って行った。
ただ、一人を覗いて。
「うああっ」
全員が覆面と黒い格好をしていた。叫んだ人間は、その場に何かを落とした。
銀色の、金属。