優しい爪先立ちのしかた
黒い、血。
栄生の視線が捕らわれている内に、背を向けて行ってしまった。反射的に追いかけようと足を踏み出したが、背中に回った手に止められた。
否、掴まれた。
「栄生さん、怪我は」
「何もない。梢」
片方の手が栄生の頬を撫でた。栄生も梢の顔に両手を伸ばすが、
「え……?」
違和感に掌を見た。
赤黒く濡れている。
ずるり、と落ちるように栄生の肩にかかる梢の体重。支えられるはずもなく、その場に倒れた。
あの頃を彷彿とさせる。
銀色のナイフに付着した血は梢のものだったのか、と冷静に思えたのはそこまでだった。
「や、やだ、梢」
ずっと一緒だと言ったのに。
「やだ、やだ……、ねえ……!」
喉の奥から嗚咽が漏れる。