優しい爪先立ちのしかた
あの時と、同じ。
栄生は震える手で梢の刺された箇所を押さえた。片手で携帯を取り出す。
爪と画面がカツカツと何度もぶつかる。
緊急の時は、嶺へと、学習した。
「……いじょうぶ、ですよ」
消え入りそうな声と、手が、栄生の携帯を持つ腕に触れる。
「ごめんね、梢。私、私が……」
電話が繋がる。
『もしもし』
仕事中なのか、後ろで能瀬が何かを言う声が聞こえた。
集中治療室を追い出された栄生が、自販機のある待合室の椅子に座っている。
「大丈夫か?」
大丈夫ではないのは一目で分かるが、それ以外にかける言葉が思いつかなかった。
嶺の声にゆっくりと顔を上げる。
その目に色がない。