優しい爪先立ちのしかた
あなたの唇
パンッと響く音に、廊下を歩く下級生の視線がそちらに集まる。
「梢さん簡単に死ななそうだもん、大丈夫!」
「うん」
笑顔を見せた栄生。それを見て、カナンの方がホッとさせられる。
壁に寄りかかりながら灰色の天井を見上げた。
「その襲ってきた人達は、見当ついてる?」
あの夜、暗闇で起こったこと。
銀色のナイフで梢を傷つけたこと。
栄生は思い出して、静かに息を吐いた。
「私の家、全部説明するには複雑なんだけど……」
「聞く!」
はっきりした声が通る。三年が自由登校の中、他の学年は授業がある。登校する三年は自習しに来ていた。
二人もそのつもりで来た。
「受験終わってから聞くっていうのはやだ。落ち着かなくて落ちる!」
「それは禁句でしょう」