優しい爪先立ちのしかた

でも、あの時沸いたのは他でもない殺意。

梢が止めてくれなかったら、きっと栄生は今頃警察にいるだろう。

「なんで? って、聞きたい」

「あの人はね、寂しがり屋なの」

「そうなの?」

「うん。だから、自分より先に私が幸せになるのが許せない。自分が不幸なとき、私が平気な顔をしてるのが許せない」

カナンの皿にタルトはもう無い。ぬるくなった紅茶の中で、溶けきれなかった砂糖が底で沈んでいた。

身震いをする。

カナンは老舗深山コロッケで産まれ育った。祖母も居れば祖父もいる、親友も兄弟もいる。
親が居ることは、普通のことだった。

そして、その親が子供の為に働いてご飯を食べさせて叱ったり喜んだりすることは、当たり前のことだと思っていた。



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