優しい爪先立ちのしかた

カッチリとした洋服を着込む聖が、気配を感じ取るように振り向く。

「あ?」

「振り向きざまに威嚇されても……」

「僕が受付に来る前に現われろよ。その前に病室教えてから呼びつけるんだな」

白い首筋と悪態をつく唇。
栄生は久しぶりに日常と出会った気がして、聖に抱きついた。

受付をしていた女性や周りを行き交う人々はチラチラとこちらを見たが、聖はされるがままになっていた。

梢の様態を聞いて来てくれた人間は沢山いた。滝埜も星屋も沙恵も駆けつけてくれた。

「梢のこと、心配じゃない?」

動かないまま聞いてみる。

来てくれた人の労りや慰めの言葉は嬉しい。でも、それは日常から程遠かった。

「命に別条は無いんじゃないのか」

「そうだけど」



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