優しい爪先立ちのしかた

予想通り。案の定。やはり。

頭に浮かんだ言葉は、声にならない。

「……悪かったな」

「どうして聖が謝るの?」

「十六夜が注意していれば、事前に防げたかもしれないから」

聖が後悔を口にするのを初めて耳にした気がした。
内容よりもそっちに気を取られる栄生。

「こっちで締めるか? それとも渡すか」

仕事をする時の顔をする聖に、栄生が苦笑いを見せる。そしてゆるゆると首を振った。

「やった人達のことはどうでも良いの。それは聖の好きにして」

「あ? 呉葉に復讐でもするのか」

「ううん」

梢を見た。

いつの間にか黒くなった髪。開かない目。
そんな物騒なこと、梢の前で言ったら制止されかねない。




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