優しい爪先立ちのしかた
お姉ちゃんと呼ばれる一番最初に浮かぶ理由。
彼は栄生の弟であること。でも、未だ弟は産まれていないはずだ。
「梢さん、どうしてここにいるの?」
「俺も分からないんですが」
栄生の泣き顔は見たことがない。涙すら。
これは夢なのか。弟が出来たという話を聞いて、梢が自分の中で作ってしまった創造の産物なのか。
だから、こんな急に成長するのか。
「お姉ちゃんを守ってくれないの?」
瞳を覗き込む瞳。
あ、栄生に似ている、と感じた。
手を握った感覚も、仄かに似ている。
―――梢、まだ起きないの?
聞こえた声。明らかに栄生のものだが、どこから聞こえるのか分からない。
―――急がなくて良いからね。行ってきます。