優しい爪先立ちのしかた
「よ、おはよ」
ぼんやりとした視界に天井らしき白が映る。
声のした方に視線だけ向けると、久しぶりに見る嶺の姿。
疲れたように手を上げて、煙草の代わりなのか棒付きキャンディを咥えていた。
「……ざいます」
「お前、起きるのが遅えよ。取り敢えず、ナースコールすんぞ」
「……い?」
「栄生が、全部捨てて行っちまった後だ」
視界の隅で栄生を探していた。
捨てられた人間共は、ただここで時間を貪り食うだけだった。
栄生が本家を出るとなった時、自分の中で決めたことがあった。
寂しくても怖くても悲しくても悔しくても、呼ばれた時以外本家に帰って来ない。