優しい爪先立ちのしかた
彼の背中
インターホンやノックもなしに、扉を開いた。廊下を歩くお手伝いさんを抜いて、栄生はあの部屋へと向かう。
「は、栄生さん!?」
「御機嫌よう」
「どうしたんですか、ノックもなしに!」
腕を掴まれて、足を止められる。
振り向いて、睨むように見下した。
圧倒されたお手伝いさんの方が手を離した。
「私が私の家に帰るのに、どうしてノックするの?」
笑顔がない。
怒りを含んだその表情に、口を噤む。
栄生は気にせずに歩き始めた。
躊躇いなく戸を開ける。和室に似合う低めのソファーに座っていた呉葉が驚いたように栄生を見上げた。
「な、なに? どうして、ここに……」
「こんにちは。座ったままで結構」