優しい爪先立ちのしかた

片手を少し前に出して、その動きを制した。栄生は慣れたように部屋の奥へ行き、花瓶の横にある棚の前に立つ。

「どうしたの? 何か探してるの? そのバケツは……」

栄生の片手にはバケツがあった。玄関からこの部屋に向かう途中に、庭に無造作に置いてあった青いバケツ。

「思い出を消去しにきたの。呉葉さんは気にしないで、赤ちゃんに何かあったら大変だし」

「思い出を何しに?」

「消しに」

棚の一番下の引き出しを開けた栄生は、その中に入った物をごっそりバケツの中に突っ込んだ。呉葉はやはり流石に座ってもいられなくなって、立ち上がる。

「何してるの、やめて」

「私、知ってた。貴方が私のことを記憶から消してしまった後、夜にこの写真を見て泣いていたこと」



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