優しい爪先立ちのしかた

固まった梢に、栄生は不安げな表情をする。
手をパッと離した。

「もしかして違った? ごめんなさい」

「いえ、違うんです。ちょっと……」

「泣かないで、梢」

聞き慣れた声。聞き慣れた口調。
それでも、彼女にとって大きな意味を持たないかもしれない。

ちょっと、嬉しくて。
ちょっと、悲しくて。

「恋人ですよ、俺は栄生さんの」

目元を覆った手を外す。冷たい栄生の手を温めるように握り返した。

「本当?」

「本当です」

「私ね、交通事故にあったんだって。だから記憶……」

「少し、歩きますか」

中途半端に開いた車の扉を閉めて、その手を引く。

波とは反対の、アスファルトの道を二人で歩いて行った。



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