優しい爪先立ちのしかた

梢が栄生を見た。彼との約束は果たすつもりでいた梢。

栄生の弟だった彼との。

「たくさん、頑張りましたね。大人は栄生さんのことを大人扱いしても、本当はまだ子供で居たかったですよね。誰が傍にいても、本当はずっと一人だったんですね。これからは俺が傍にいます」

例え、彼女の中身が以前とは変わってしまっていても。

「ずっと一緒にいます」

目から涙が零れた。今まで溜まっていた分、大粒の涙だった。

栄生の涙を拭う。

「梢はそうやって、私のこと、子供扱いしてくれてたんだ」

鼻を啜りながら袖で頬を拭った。栄生はへらりと笑う。

「ありがとう、梢」

泣いたのは、栄生であって栄生じゃない。




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