優しい爪先立ちのしかた

「だから、ずっと一緒に生きましょうね」

栄生は子供だった。

子供として生きていけなかったその時間を、もしかしたら無意識に取り戻そうとしているのかもしれない。

それでも良い。

歪められた栄生の世界は完全に変形して、綺麗に納まった。その中で栄生が笑っているのなら文句は何も無い。

「長生きの秘訣は肉を食べる所からですね」

「……チキンなら食べられるもの」

「牛も豚も栄養豊富ですから」

「嫌いなものは嫌いなの」

栄生の頬に手を添える。少し屈むのを合図に、自然と栄生の踵も浮いた。

爪先立ちをして、静かに目を伏せる。

「梢、安全運転で帰ってね?」

唇を重ねる直前に紡がれた言葉。

その意味を、波音だけが攫っていった。





end.
20150612




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