優しい爪先立ちのしかた
着替えた後、栄生は静かに父親の元まで行き、帰る旨を伝えた。
「分かった、大丈夫か?」
「平気。梢も大丈夫」
「壱ヶ谷くんともうまくやれると良いな」
うん、と頷いて親族と話す呉葉を見た。こちらに気づいてはいない。
ばいばい。
痛いくらいの視線が刺さってきたことを思い出した。
梢は用意していた手が止まる。あの中に栄生は一人で入って行ったのだと思うと呼吸がし辛い。
それを一気に吹き飛ばしたのは栄生の声。
栄生が部屋に戻ると、荷物の整理が為されていて、梢は待っていた。
「帰ろう、あ、お土産もらってくるの忘れた」
「良いですよ。帰りにスーパーと、ドラッグストア寄って良いですか」
「良いけど。何か欲しいものがあるの?」