優しい爪先立ちのしかた
「すこし」
濁した彼の心中はまた、栄生にも分からない。
女将が笑顔で送り出してくれた。他の従業員も、深くお辞儀をする。
助手席に乗り込んだ彼女をもう止める術は知らず、梢は車を発進させた。
ナビを弄っていたが、疲れていたようですぐに睡眠に入る。もしかしたら、昨日もよく眠れていなかったのかもしれない。
まだ始まったばかり。
そう簡単に信頼を得られないことくらいは知っている。
スーパーとドラッグストアが並んでいる駐車場に車を停めた時、ちょうど栄生が起きた。
「買い物行きますけど、何か要るものありますか」
「ついてく」
寝起きの舌足らずな声で返事をして、シートベルトを外す。足取りも覚束なくて、梢が肩を支えた。