優しい爪先立ちのしかた
ドラッグストアに入った二人。梢が何か言いたげに栄生の方を見た。女が居ると買い辛いものだろうか。
「居ない方が良い?」
「どっちでも、良いですけど」
けど、なに? 言いたいことは言葉にまではならず、栄生は躊躇いなく梢の少し後ろを歩く。
何を買うのだろう、と内心わくわくしていた栄生。
着いたコーナーは、ヘアカラーリング剤のコーナー。
きょとんとした顔の栄生を余所に、梢は一番暗い色のカラーリング剤を手に取った。
「ちょっと。何、誰の髪の毛を染めるの?」
「…俺の、ですけど」
梢は実感した。
氷室に居るのなら、変わらなければならない。
まずはこの明るい髪色からだ、と。
栄生は冷たい掌を梢の腕に乗っけた。