優しい爪先立ちのしかた

それを見た梢の横っ面を叩こうとした栄生の手が止められた。反射神経はただの女子高生をしてきた栄生より良いのは当たり前だ。

と見せかけての、片手を繰り出したその手は止められなかった。

殴られるより全然弱い音が聞こえる。栄生の方が一枚上手。

「誰の許可を得て黒染めしようとしてるの? 私ラブラドールよりゴールデンレトリバーの方が好きなんだけど?」

「誰の許可って…は、犬…?」

「友達にもゴールデンレトリバーだって言っちゃったもの。急に犬種変わったなんて言えないでしょうが」

掴まれた手を振り払った栄生は、梢の持ったカラーリング剤を棚に戻して、服の裾を引っ張った。寝起きも原因なのか、イライラしているらしい。

…つーか、本当に犬…?



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