優しい爪先立ちのしかた
今日は煮魚が良い、という栄生のリクエスト応えて買い物をし終える。車に戻るとすぐに靴を脱ぎ捨てるお嬢さん。
自分の足の裏を器用に持って、すっかり暗くなった窓の外を眺める。あるのはホテルのネオンか、ガソリンスタンドか、街灯くらい。
「髪の毛、似合ってるから。そのままにしてよ」
あの後、梢が一人で買おうとしたのが見つかり、栄生から穴ばかり空いた耳を引っ張られた。
呟くように言った言葉は、しっかりと梢まで聞こえた。少し自分の耳を疑い、それでもまだ外を見ている栄生に「はい」と返事をした。
「それと、」
「はい」
「着いて来てくれてありがとう」
赤信号で停まる。今日はヤケに素直だと、栄生の方を向くとコテンと顔が向こうに傾いた。
寝顔を見せないのが、彼女らしい。
「こちらこそ、ありがとうございます」