優しい爪先立ちのしかた
苦笑する梢に、カナンは冗談半分に忠告する。
「気をつけてくださいね、アッパーカットを食らったら最後です。私はないですけど」
「アッパーカット…」
「でも良かった、なんか前の人たちと雰囲気違って」
素麺を水で洗って、皿に盛り付ける。買ってきた小瓶のめんつゆを器に注いだ。出来たてらしいコロッケが皿に出される。
前の人たち。
複数形で語られるそれは、まるで栄生が使い捨てていったもののように感じられる。
「違いますか」
「栄生ちゃん綺麗だし、男の人だと特に。すぐに来て、ヘラヘラし始めるんですよ。でも、栄生ちゃんはそれでも良いって思ってたみたいですけど」
「屋敷に二人ですからね」
「前の人、居なくなってから結構経ってたから、もう来ないのかと思ってた」
独り言のようなものだったのだろうが、梢は麦茶を注ぎながらそれをしっかり聞いていた。