優しい爪先立ちのしかた

その苦笑に少し首を傾げて、「どうかしましたか?」と聞く。

「私は梢さんのお嬢じゃないんで、隣を歩いて欲しいなって」

「はい、すみません」

スポーツバッグを左にかけ直して、カナンは空を仰いだ。

彼女がこうした仕草をするときは、いつも言い出せずにいる時。
初対面の彼が知る由もないが。

空を見上げたカナンと同じように、梢も上を向く。

今日の夕飯は何にしようか、と考え始めたところ。

「梢さん、栄生ちゃんには言ったこと、秘密にして欲しいんですけど」

「はい」

背の高い梢も、見上げないと見ることができない。

何か頼みだろうか、と思いながらカナンを見る。カナンは勇気を出して、口を開いた。

「…前の使用人さんがって、前の人の話ばっかりして申し訳ないんですけど」



< 52 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop