優しい爪先立ちのしかた
その苦笑に少し首を傾げて、「どうかしましたか?」と聞く。
「私は梢さんのお嬢じゃないんで、隣を歩いて欲しいなって」
「はい、すみません」
スポーツバッグを左にかけ直して、カナンは空を仰いだ。
彼女がこうした仕草をするときは、いつも言い出せずにいる時。
初対面の彼が知る由もないが。
空を見上げたカナンと同じように、梢も上を向く。
今日の夕飯は何にしようか、と考え始めたところ。
「梢さん、栄生ちゃんには言ったこと、秘密にして欲しいんですけど」
「はい」
背の高い梢も、見上げないと見ることができない。
何か頼みだろうか、と思いながらカナンを見る。カナンは勇気を出して、口を開いた。
「…前の使用人さんがって、前の人の話ばっかりして申し訳ないんですけど」