優しい爪先立ちのしかた
そのことに唇を尖らせつつも、カナンは大人しく宿題を写した。
早速このことを梢に報告せねば、と思いながら。
吸った空気が重たい。これだから梅雨は嫌だ。
「ハナちゃん? なんか飛んでた?」
この前繁華街で偶然会った先輩が、栄生の視線の先を見た。
しかしそこには曇天が広がっているだけ。烏一匹すら飛んでいない。
「何も。そんなことより、先輩。明日の夜は会えますか?」
「もちろん。美味しいところ、連れてくよ」
「楽しみにしてます」
くすくすと笑う彼女の顔に見惚れる。
癖っ毛だからという理由でサイドにまとめられた髪の毛。白い項が見える。
繁華街を通って屋敷に帰る。その途中で、梢の姿があった。
女と並んでいたが、何も言わずに通り過ぎた。
「私、ずっと先輩のこと好きだったんです」
空っぽの中身から出るのは、空っぽの言葉だけだ。