優しい爪先立ちのしかた
本当は、いつも座椅子代わりにされているのが板についてきてしまっているのだ。
最近呼ばれない、と心配しているのもあるが。
栄生が我が儘を言えるのは梢くらいだ。
「あ、降ってきた」
外に投げていた脚を引っ込める。怯えるようにそれを見た。
梢は立ち上がり、「入れてきます」と言う。
背中を向けた彼の方を向いて、栄生が手を挙げて呼んだ。
「梢」
振り返って、すぐに理解する。身を屈めてから横抱きするように背中に手を回す、が。
「あ、やっぱりいい」
膝の上に置いた本を抱きしめて、逃げるように立ち上がった栄生。
いきなり拒まれた梢の腕は行き場をなくした。
「ごめん、洗濯物入れるんだものね。行ってきて」
結局、先に背中を向けたのは栄生だった。